自分の世界を広げるために、初めて「行動経済学」の本を読んだ、スタジオ生徒のMさん。
最初は読むのに抵抗があったみたいですが、読むと発見があったようですよ。
『アリエリー教授の「行動経済学」入門』鑑賞レポート
◆著者紹介
著者のダン・アリエリーは、イスラエル系アメリカ人の教授、作家である。
デューク大学の心理学および行動経済学のジェームズ・B・デューク記念教授を務めている。
デューク大学先進後知恵研究センターの創設者、BEworksの共同創業者でもある。
本書以外にも『予想どおりに不合理-行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』や『不合理だからすべてがうまくいく-行動経済学で「人を動かす」』、『ずる-嘘とごまかしの行動経済学』なども執筆している。
◆本の概要
本書は、著者がサンフランシスコで若手の企業家たちに向けて行った全6回の集中講義を収録した、NHKの人気番組「お金と感情と意思決定の白熱教室〜楽しい行動経済学の世界〜」を書籍化した物である。
豊富な事例や実験例を用いながら、様々な意思決定や行動において、私たちはどんな思い込みや思い違いをしているのかを明らかにしていくという内容だ。
特に好きな講義トップ3
①人間は"不合理"な存在である
この章では、ヨーロッパの国々で臓器提供プログラムに関心のある人の割合について取り上げられている。
その割合を集計したとき、非常に数値が高い国と数値の低い国とで大きな差が生まれた。
実は、このような事態の裏側にはあるアンケート方式が関連していた。
数値の低い国は臓器提供プログラムに「参加したい人はチェックする」という"オプトイン方式"であるのに対し、数値の高い国は「参加したくない人はチェックする」という"オプトアウト方式"だったのだ。
つまり、複雑で判断が難しい選択を迫られたとき、人は何もしなくなり、1番楽な初めの設定(デフォルト)からわざわざ変更しようと思わないのだ。
この例から、人の意思決定は"環境"によって左右されるものであることがわかる。
そのため、人の意思決定を変えたいのならば、まずは"環境"に小さな変化を与えることから始めるべきであると、筆者は言う。
人は最初に大きな目標を決めたがるが、それが複雑なものであれば考えることをやめ、放棄してしまいがちである。
だからこそ、一度に大きく変えるのではなく、まずは到達できる小さな目標を設定し、そこからステップアップしていくという工程が大切だと学んだ。
②人々の感情をどう動かすか
この章では、世界で起きた災害や、世界規模の病気などに対してアメリカ人が寄せた寄付金の内訳を示したグラフが提示されている。
グラフを見てみると、被災者や患者の人数が少ないほど寄付金が多く、多いほど寄付金が少ないことが顕著に現れていた。
ここからわかるのは、人は問題が大きくなればなるほど、人々の関心は小さくなるということである。
人は問題が自分の把握できる規模を超えると、「自分がなにかに貢献している」という満足感が得られにくくなり、したがって「寄付をしたい」という感情が薄れてしまうのだ。
よくあるニュースや広告では、物事の重大さをどうにか訴えようと、被害を受けている人数などの大きな数字を記しがちである。
しかし、それこそが人の「〜したい」という感情を抑制させてしまう要因になっているということを学んだ。
③ 自己をコントロールする方法とは
この章では、人が誘惑に負けてしまう原因の双曲割引と、それを打ち勝つ方法について話している。
双曲割引とは、目の前の価値を優先し、遠い未来の価値を割り引いて考えてしまうことである。
例えば、「今から1万円を貰う」のと「1年後に1万2000円」のとでは、金額だけ見れば後者の方が高いが、ほとんどの人が前者を選んでしまうのだ。
筆者は過去に重い病気にかかり、治すためには酷い副作用のある注射を週に3回、1年間打ち続ける必要があった。
そこで、筆者が利用したのが代替報酬という方法である。
具体的に、映画マニアの筆者は注射を打つ日の朝にレンタルビデオ店に行き、本当に見たい映画を借りる。
そして、注射を打つと同時に映画を再生する、というものだった。
つまり、注射の副作用に耐える嫌な時間を、映画を見ることで集中し、楽しい時間に転換させていたのだ。
人はすぐに効果が得られるものなら続くが、効果が見られないものは続けづらい。
だからこそ「後回し」にしてしまうことも多くある。
ある種それは人の性だが、そのままでは現状から変わることはできない。
筆者のように代替報酬を利用し、柔軟な発想で自分を良い未来へ導いていく必要があることを学んだ。
最後に
本書を読み始めた当初は、「行動経済学」といういかにも内容が難しそうなタイトルに怯んでしまい、あまり読む手が進まなかった。
しかし、読んでいくにつれて「行動経済学」とは、自分の将来をより良くするためのヒントをたくさん与えてくれる学問であることを知った。
全体を通して、筆者が伝えたかったのは【人の悪い特性を直すために逆に特性を利用して目標の実現を目指すことができる】と考える。
私は、今まで「悪い特性はマイナスでしかなく、片っ端から直して自分を作り変えていかなくちゃ」と、視野狭く考えていたが、本書に出会い、人にはどんな特性があるのかを知った。
そして、たとえ悪い特性でも、利用してより良い将来を目指すこともできると知り、自分の愚かな特性も愛せるような気がした。
私はこれからも自分の心に対する学びを深めていきたい。